神様修行はじめます! 其の五
『でもいま、つくづく思うんです。私は姉様じゃなくて良かったって』


『なぜそう思うのですか?』


『それは……』


 軽く首を傾げて、水晶は指先でモジモジと髪をいじっている。


 なにやら言いにくそうに唇をモゴモゴさせて、やがて成重からふわりと視線を逸らした。


『だって……成重様の友だちは、姉様じゃなくて私ですから……』


『……!』


 小鳥の鳴き声よりも小さな、震え声。


 首筋まで赤く染まった水晶は、照れ隠しなのか、やたら瞬きを繰り返している。


『だから私は、私がいいです。姉様よりも、だんぜん私がいいです』


 それだけ言って水晶は、息が詰まったように真っ赤になって、カチコチに固まっている。


 成重は、水晶の小柄な体を抱き寄せたい衝動を押さえるので、精いっぱいだった。


 あぁ……この人は、いつもいつも……。


『水晶殿、あなたは、いつも……』


 出会ったときから、いつも私に与えてくれる。


 気づかせてくれる。救ってくれる。


 水底にずっと息を潜めて沈んでいた、無垢で透明な水晶。


 そのあなたが、世界の姿を気づかせてくれた。


 あの太鼓橋で、この水晶と出会ったのは私。


 一族の長である父上でもなく、跡取りの兄上でもなく、天与の才を持つ遥峰でもない、この私。


 あの奇跡のような出会いに、私が誰でもない私であるという幸運に、いま心から感謝する。


 水晶、あなたは、私の僥倖。


 私はあなたを、心から愛している……。
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