神様修行はじめます! 其の五
『水晶殿、明日、私にお時間をいただけますか?』


 成重は改まった口調で、水晶にそう告げた。


『大切なお話があります。水晶殿の御父上にも、ぜひ同席していただきたいのです』


『え? 父様にも?』


『御父上の承諾が必要な申し込みなのです。どうかお願いします!』


 成重は水晶の手を両手で包み込むようにして、強く懇願する。


 意味深な言葉と、成重の鬼気迫るほど真剣な表情に、水晶の心臓がバクンと跳ね上がった。


『は、はい。わかりました』


『今日と同じ時刻に参ります。よろしいですね?』


『はい』


『それでは水晶殿、また明日』


 しばらくそうして見つめ合い、成重は意を決したように足早に立ち去っていく。


 今までになく真剣な横顔と力強い足取りを、完全に視界から見えなくなるまで、水晶はじっと見送っていた。


 そして庭には誰もいなくなり、目に見えるのはいつもの見慣れた景色と、耳に聞こえる音は風の囁き。


 でも大きく見開かれた水晶の目には、竹もサツキも映らない。


 頭の中では、先ほど見た成重の真剣な表情と、彼の言葉が繰り返されている。


 そして、そこから予測される答えは……。


『もしかして?』


 もしかして。もしかして。もしかして?


 叶うのだろうか? 諦めながらも、ずっと消すことのできなかった望みが?


 いやまさか。そんなことは有り得ない。でも。そんな。いえ、それでも。


 まさか本当に、成重様も私のことを……?


 胸が痛いくらいにバクバクと高鳴る。


 本当に弾けそうに息苦しくて、水晶は両手で胸を押さえて、ひたすら深呼吸を繰り返した。


 落ち着け落ち着け私。こんなときこそ冷静になるんだ。


 自分が想う相手に想われる? なにをバカな。そんなのまるで奇跡じゃないか。


 そんな奇跡、あるわけがない。そんな奇跡が……。


 奇跡が……。


 たしかに起こった。あの日、太鼓橋で。
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