神様修行はじめます! 其の五
「子猫ちゃん!」


 子猫ちゃんの様子を窺ったあたしは、一瞬、呆けてしまった。


 氷の上には、不気味なほど鮮烈な赤い血だまりができていて、真ん中に小さな体が壊れ物のようにクタリと横たわっていた。


 その光景に違和感を感じて、あたしはとっさに眉を寄せる。


 え? あれ? コレ、どうなってる?


 子猫ちゃんの、体、が……?


「……!?」


 ようやく正確な状況を理解したあたしの頬が、一気に強張った。


 胸がワナワナと発作みたいに震えて、うまく息ができない。両手で顔を覆って、ノドの奥から細い悲鳴を上げるのが精いっぱいだ。


 他に、どうすればいいのか、まるで分からない。だって……。


 だって、血だまりの中の子猫ちゃんの体が……。


 異形に噛み千切られたせいで、真っぷたつに千切れてしまってる!


「――――!」


 声にならない悲鳴を上げ続けるあたしの両目に、涙がブワッと浮かび、すごい勢いでボタボタと頬を流れた。


 あまりにも急激に充血したせいで、目の奥が酸で焼かれたようにジリジリと痛む。


 子猫ちゃんの、無残な、遺体。


 滝のような涙を流す目に映る子猫ちゃんの姿は、フワフワの綿毛みたいだった体毛が、赤黒い血でベットリ汚れきっていた。


 小粒の真珠のような小さな体は、ちょうど半分あたりで噛み千切られている。


 ほとんど、背中の薄皮一枚だけで胴体が繋がっている状態。


 そのあまりに酷い傷口からはみ出た内臓が、涙で霞んで見えた。


 普通なら目を背けたくなるようなグロテスクな光景だけれど、あたしは子猫ちゃんから目を逸らすこともできない。


 目の前の凄惨な現実を認めることを、脳が強烈に拒否している。


「う、わあぁ……! あぁ、あ――!」


 子猫ちゃんが、死んだ!


 殺されてしまった!


 ああ! やっぱりこんな危険な場所に連れてくるべきじゃなかった。絹糸がなんと言おうと反対するべきだったんだ。


 まだこんなに幼い命が、あたしたちを守るために犠牲になってしまったなんて……!
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