神様修行はじめます! 其の五
「凍雨くん! あっちのファイヤーショット、なんとかして!」


 凍雨くんは、まるで電池の切れかけたオモチャみたいな動きで、ゆっくりと首を横に振った。


『む・り・で・す』


 無言の彼の顔には、ハッキリそう書いてある。もはや声を出す余裕もないんだろう。


 極限ギリギリまで神経を集中しているせいで、完全に表情を失った能面みたいな顔は汗びっしょり。


 それは炎の熱気のせいだけじゃない。これ以上の術の発動は、凍雨くんの方も限界。


 あっちの炎の玉まで処理する余力なんて、ミジンコ一匹分もないんだ。


―― ガラガラガラ……


 龍たちが暴れるせいで、ただでさえ大穴が開いて脆くなってる屋根が崩れ、木材が落っこちてくる。


 子猫ちゃんの体に覆い被さっているあたしの背中と後頭部に、バラバラと大小の木材が降りそそいだ。


 その間にも龍は暴れ続け、床を揺らす振動はますます大きくなっていく。


「……ゲポッ」


 あたしの体の下から嘔吐するような音が聞こえた。


 子猫ちゃんが真っ赤な血を吐き出しながら苦しんでいて、あたしは青ざめてしまう。


 この激しい振動のせいで傷が悪化している。このままじゃ子猫ちゃん、死んじゃうよ!


「に……いぃ~~……」


 血で染まった子猫ちゃんの口から、か細い泣き声が漏れ出た。


「に、いぃ……。にー……」


 澄んだ鈴の音のように小さな悲しい声。


 子猫ちゃんの焦点の霞んだ両目から、透明な涙がポロポロ流れ落ちる。


 あたしの目からも、焼き付くような熱い涙がボタボタと零れ落ちた。


 こんな幼い命が、こんな血みどろの凄惨な姿で、それでも生き延びるために最後の力を振り絞って懸命に足掻いている。


 子猫ちゃんは、あたしたちを守るためにここまでついてきてくれたのに!


 当のあたしたちは、見ているだけでなにもしてあげられないなんて!


 なにが神の一族よ! あたしはどんだけ無能なバカヤロウなのよ!


 子猫ちゃん……! ごめんなさい!


「我が子、よ……!」


 死にゆく子猫ちゃんの声が届いたんだろう。絹糸の両目がギラリと見開かれた。
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