神様修行はじめます! 其の五
 そんなあたしたちの遥か頭上、遠い空の向こうに、キラリと輝く小さな光が見えた。


 あれは、夜空に瞬く一番星……


 なわけがない。こんな明るい時間帯に。


―― フオォォーーーーッン!


 次の瞬間、鈴鹿サーキットのF1グランプリみたいな、空気を切り裂く音が聞こえたと思うや否や……


 大きな黒い影が凄まじい勢いで、あたしの真横を通過した。


「うわ――っ!?」


 勢いに煽られて、その場にドシンと尻もちをついて引っくり返ってしまう。


 超ハイスピード物体が巻き起こした風圧のせいで、髪も服も土埃も、みんな一緒くたにブワッと舞い上がってしまった。


「ブホッ! ゲホ! ゲホォッ!」


 目と鼻とノドに埃が入り込み、盛大にむせった。


 うげえぇ、目ぇ痛い。セキ止まんない。息が苦しい!


 直前にしま子が水撒きしてくれてて良かった。じゃなかったら辺り一面、砂嵐になるとこだった!


「みんな、大丈夫……て、あれ? 絹糸は?」


 涙目でセキ込みながら周囲を見回すと、さっきまで足元でギャーギャー騒いでた絹糸がいない。


 え? どこどこ? 絹糸どこ行っ……


「あそこですわ! 桜の樹の枝の先っぽ!」


 お岩さんが指さす先の、庭で一番高い木のてっぺんの枝先に、なんと絹糸が引っ掛かってプラプラ揺れている。


 わー!? 絹糸、軽いから吹っ飛ばされちゃったんだ!


 また絶妙な場所に引っ掛かっちゃって、大丈夫!?


「絹糸ー! ちょっと絹糸、しっかりしてー!」


「ダメです! あれ絶対聞こえてませんよ! 白目剥いてます!」


「ベルベットちゃん起きて! 目をお覚ましになってぇ!」


「で、でも、起きて自分の置かれてる状況に気がついたら、それはそれでヤバくないですか!?」


「ベルベットちゃん、聞こえますこと!? 聞こえたら、そのまま目を覚まさないでぇ!」


「聞こえた時点で目ぇ覚めてるよ! お岩さん!」
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