ハミングバード
 光吉にとって口笛は暇つぶしに
ちょうどよかった。
 最初は下手でも何とか吹ければ
気分がよかったが、だんだんうま
く吹けるようになりたいという欲
が出てくる。
 光吉は買い物の行き帰りに鳥の
鳴き声を耳にすると、鳥を探して
その鳴き声を真似てみた。
 息を吹いてばかりだと息苦しく
なる。
 偶然、息を吸った時に音が出
た。
 試しにまた息を吸ってみたら、
いい音が出た。
 息を吹いたときよりも、吸った
時のほうが高い音が出る。
 しだいに光吉は口笛が上達して
いった。

 いつしか家に来ていた小鳥は来
なくなっていた。
 光吉はもの悲しくなり、一度だ
け見たことのある黒澤明監督の映
画「生きる」に流れていた「ゴン
ドラの歌」を記憶をたどりながら
吹いていた。

 光吉18歳の時。
 夜、暴走族仲間と閉店したスー
パーに金を盗みに入り、居合わせ
た店長を脅して金庫を開けさせ
た。
 バイクで逃走しようとした時、
急行したパトカーと友達の乗った
バイクが激突し転倒。
 他の仲間は逃走したが、光吉は
倒れて動かなくなった友達を助け
ようと抱きかかえた。
 友達はぐったりして眠っている
ようだった。

 光吉は涙を流しながら口笛を吹
いていた。
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