君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「本田さん」
きゆは本田の腕をつかみ、外に出ないように阻止した。
マルの事を考えれば胸が苦しくてしょうがないけれど、でも、今は、本田の身を守る事が最優先だ。それだけあの地域は高潮の被害をこれまでも受けてきた。
この島に生きる人間であれば、海の近くに住む危険性を身に沁みて分かっている。
「本田さん、大丈夫ですよ。
マルは俺がここに連れてきますから」
流人はもう白衣を脱いで普段着のジーンズに履き替えていた。
リュックの中に携帯の充電用のバッテリーと、タオルに懐中電灯やらを突っ込んでいる。
「流人先生、ダメ」
きゆがそう言っても流人はもうきかない。
「どっちみち、本田さんも俺もマルの事を見捨てることはできないんだから。
だったら、80歳の本田のおじいちゃんが行くより、俺が行った方が確実にマルを助けられる」
「この間も話したでしょ。あの地域はこの島の中で一番危険な場所なんだって。
もし、家にたどり着いたとしても、ここに帰って来れないかもしれない。
だから、やめて…」
流人は困惑している本田のおじいちゃんに笑顔を向けた。
「大丈夫、必ずマルは連れて帰りますから。
おじいちゃんにとってのたった一人の家族を、俺は絶対見殺しにはしない」