君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



「今から、瑛太に電話して、あの地域に誰か行ってないか聞いてみる。
だから、先生、もう少し待って」


流人は病院の納戸に首を突っ込んで、カッパやガムテープや緊急事態に何かしら必要になりそうなものを、更にリュックに詰めていた。


「いいよ、電話しなくていい。
あいつも忙しいだろ。それに、早くに出発しないと暗くなるし。
ちょうど、診察時間も終わりだし、今5時だろ? 
7時には帰ってくるよ。今の時期、日が長いから、できるだけ明るい内に帰ってくる」


きゆが呆然としていると、流人と本田は、雨の中、駐車場で何かを話している。
きゆも走って駐車場に向かった。


「やっぱり、止めた方がいいと思う。
マルは近くの人に一緒に連れて来てもらおうよ
この台風は普段来る台風よりはるかに大きいんだから、危険過ぎる。

行かないで、流人先生。行っちゃダメ」


きゆの話はちゃんと聞こえてるはずなのに、流人は聞こえないふりをして車に乗り込んだ。


「きゆ、本田のおじいちゃんをちゃんとセンターに連れて行くこと。
マルはここに連れて帰って来る。大丈夫だって、ちゃんと連絡するから」


きゆは自分が後悔してしまいそうなそんな嫌な予感がしていた。
あの時に死にもの狂いで止めていればって、取り返しのつかない状況になってしまいそうで足がすくんだ。


「流ちゃん、行かないで…」


打ちつける雨と吹きすさぶ強風にきゆの声はかき消され、流人は涼しい顔をして、嵐の中を出て行った。





< 89 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop