御曹司様のことなんて絶対好きにならない!
お母さんのためだけに一生懸命食べていた小さな男の子が、大人になって自分のために食事出来るようになったんだ。


「あれ?香奈美、泣いてる?」

「うん。玉ねぎの親戚だからかなー、この長ネギ切ってたら涙出てきちゃった」

無理矢理な言い訳だけど料理しない将生は信じてくれて。「俺、変わるよ」とぎこちない手で包丁に挑んでくれる。



幸せだなー。私達、凄く幸せだ。



将生の隣で料理をしながら幸せを噛みしめる。



坊っちゃまの事をこんなに好きになるなんて1年前には想像もしてなかった。
その軽快さや立場の華やかさを疎んで、関わらないように距離を置いていたのに。その奥の真摯な一途さなんて知らなかったのに。

「何でも器用なのに包丁は不器用なんだね」

横からの将生の心配そうな視線に慌てて微笑んでからかう。
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