御曹司様のことなんて絶対好きにならない!
それは係長が連れて行ってくれたお店からも分かる。

「味覚だって人並みにある。でもね、食事自体を楽しめないんだ。多分、今の仕事してなかったら毎日栄養補助食品とかで済ませてるんじゃないかな」

ハハッと空笑いしながら言う係長の視線は中庭に向いたまま。きっとこれからする話は言いたくない話なんだ。
でも係長は私に聞いて欲しいって言ってくれた。だから私は黙って係長の話の続きを聞いた。


「両親は俺が産まれる前、上手くいってない時期があったんだ。でもまだ小学生の息子もいるし、世間的な事考えても離婚は難しい。だから話し合ってやり直す事にした。そしてその為に、もう1人子どもを持つ事にしたんだ」

「なかなかに凄い決断だろ?」と苦笑して、係長は私を見た。

「でも俺を産んで、母親は体調を崩しちゃってね。だから俺の記憶の中の母親は細くて、白くてって感じでさ。
きっと、俺の事をちゃんと育ててやれてないって負い目もあったんだろうな。せめて食事だけは、って具合が良くなくても一緒に食べてくれてさ。って言っても母親はほとんど食べないから食べるのは俺だけ。ちょっとしんどかったかな」



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