御曹司様のことなんて絶対好きにならない!
ダイニングテーブルに母親と小さな男の子と2人。父親は仕事で帰りが遅くて、年の離れた兄もなかなか家にいない。
2人で座っているのに、食事をするのは自分だけ。


それでも良かったのだと係長は言った。
食事中は一緒にいて話を聞いてくれるし、母親の愛情を感じられた。でも母親に心配させたくないから、どんな時でもどんなものでも嬉しそうに完食しなければいけない。

それはツラかったなー、と苦い笑いが零れる。

「風邪気味であんまり食欲ない時でも残すと母親が心配するからさ、残せないんだ。もちろん、母が何かを言った訳じゃない。
でも小学生の俺はただただ、お母さんを悲しませたくなかったんだ」

「で、俺にとっての食事はその頃から摂取するもので、愉しむものじゃなくなったんだ」


その後お母さんが亡くなって、まだ小学生の係長は大学生だった兄の常務と一緒に食事するようになったらしい。

「でさ、しばらく一緒に食べてたら、俺の食事の様子がオカシイって兄貴が感じて。申し訳ない事に、兄貴は留学の予定を変えてまで俺と一緒にいてくれたんだ。だから今でも頭が上がらなくってさ」
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