ずるいです……部長。
真っ白な外観のホテルに着くと、そこは緑に囲まれていて。
人工的なライトで静寂な自然がライトアップされて、昼間日に照らされたそれとは違う輝きを放っている。
「素敵……」
バーの窓は大きく、都会のビルから見下ろすのとはまた違った夜景を一望できた。
この3ヶ月、常にやることに追われてきた私の、あっという間に過ぎていった時間が……止まったように、ゆっくりと流れる。
部長とこんな特別な空間でお酒をたしなめるなんて。
仕事といえど、勘違いしてしまいそうになる。
これが日常だということを、忘れてしまう。
(夢でも、見ているみたい……)
それに、今夜一緒に、泊まれるなんて……そして朝は一緒に新幹線。
幸せだなぁ。ま、まぁ、部屋は違うけれども。
って、私、さっきから……よこしまなこと考えすぎ!?
真面目に働かなくちゃ、真面目に……!!
「乾杯」
「か、乾杯! お疲れ様です!」
細長いカクテルグラスを軽くぶつけて、口に運ぶ。
美味しいお酒。素敵なホテル。
隣には、憧れの人……。
贅沢すぎる。こんな時間、過ごしていいのかな?
「今日」
「は、はい?」
「誕生日だろ」
(……え?)
「悪かったな。誰かに祝ってもらう予定だったか?」
……忘れていた。
自分の誕生日のことなんて、言われるまで、すっかり忘れていた。
「いえ、祝ってもらう人なんて……いませんよ」
言っていて、ちょっと空しくなる台詞だ。
「なら、俺に祝わせてくれよ」
「え……」
「好きなもの、頼め」
「け、経費ですか?」
「バカか」
(……??)
あの、部長。
部長は全然、鬼なんかじゃないです。
むしろ、アメとムチのアメ、
とんでもなく……甘いです。
新人に対して、やりすぎですよ!?
なんで誕生日とか覚えてくれているんですか?
こんなシチュエーション……まるで、カップルみたい……
忘れられない夜に、なっちゃうじゃないですか……。