副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「今のお前、いい顔してるよ。その調子でやってこい」

「え……」


私、今どんな顔をしているんだろう。とりあえず、顔が熱いっていうことしかわからない。

無意識に自分の頬に手をあてていると、副社長は「じゃあな」と言ってメイク台から身体を離し、ドアのほうへ歩いていく。彼がその取っ手に手をかけた時、私はとっさに呼び止めようとした。


「あの──!」

「何をしてらっしゃるんですか、副社長」


私の声は、同時に開かれたドアの向こうで待ち構えていたらしい人物の声に掻き消された。

副社長のすらりとした背中の陰からそっと向こう側を窺うと、三十代前半くらいの眼鏡をかけたスーツ姿の小柄な男性が、ムッとした表情で副社長を見据えている。


「会議に遅れます! ここは会場までの通り道だから、少し様子を見るだけなら、と妥協して寄ったのですよ? 油を売ってる暇はありません」

「せっかちだな明智は……」


明智(あけち)というらしいその人に、副社長はため息混じりに言い、高級そうな腕時計に目を落とす。


「まだ寄って十分しか経ってないじゃないか。お前はもっとおおらかにならないとモテないぞ。ただでさえ顔恐いのに」

「これは生れつきですし余計なお世話、っていうか失礼すぎます」

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