副社長とふたり暮らし=愛育される日々
明智さんの一重の瞳が、さらに鋭くなったように見えるけれど、副社長は何も気にしていないように軽く笑い飛ばしていた。

そして、こちらに注目していたスタッフの皆に「お疲れ」と一声かけると、片手をポケットに入れ、颯爽と階段のほうへ向かっていく。皆が頭を下げる中、私はまだ呆然としてしまっていた。


そんな私の手前で、「まったく……」と小さく漏らして眼鏡を押し上げる明智さんだけれど、こういうことには慣れている様子。きっと副社長の秘書なのだろうと、私は推測していた。

彼も後を追って歩きだす。しかし、ほんの一歩進んだだけで足を止め、くるりと私のほうを向いた。

副社長も言っていた、少々キツそうな印象のお顔と目が合い、無意識に背筋がピンと伸びる。

おぉ……明智さんも、副社長とはまた違う威圧感がある……。

何か言われるのかと思いきや、彼は無表情のまま私に一礼しただけ。慌てて私も頭を下げたけれど、顔を上げた時には、明智さんはすでに階段を上ろうとしていた。


「なんだったんだろう……」


ふたりが風のように去って、普段のスタジオ風景に戻り、なんだかついさっき私の身に起きた出来事が夢だったみたいに思える。

副社長の瞳で、声で、手で。心の奥のほうから熱くさせられたような気がする。

なんだろう、この甘いもどかしさは。

これが、おまじないの効果──?




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