副社長とふたり暮らし=愛育される日々
副社長は、私のその気持ちを見抜いているかのように思えた。

『ひとりで寂しかったんじゃないのか?』というひと言も、決して私をからかっているようには受け取れない。

どうして、この人は私のことを理解しているのだろう──。

普通なら気味が悪いと感じるかもしれないけれど、なぜかそんなことはなく、むしろ私ももっと副社長のことを知りたいと思う。


思いを巡らせながら、吸い込まれそうな薄茶色の瞳を見つめていると、彼はふっと笑みを浮かべた。そして、またしても私を驚かせることを言う。


「ま、細かいことは気にしないで、今日は俺に甘えていてくれ。レストラン予約してあるから行くぞ」

「えっ!?」


副社長と食事をしに行くの!?と、ギョッとする私をよそに歩きだそうとした彼が、「その前に……」と言いながら突然振り向いた。


「“瑞香”も、もっと素敵な女にしてやりたい」


甘さを含んだ笑みと声色でそんなことを言われ、私は目を見開く。


「今の素朴なお前もいいけどな」


次いで、さらっとつけ加えられたひと言で、心臓がドキリと動いた。

本当におかしな人……こんな私のことをかまうなんて。何を考えているのか、まるでわからないけれど、不思議とついていきたくなる魅力を持っている人だ。

……今日はクリスマスであり、誕生日。少し現実逃避をしたって、誰も私を責めないよね。

いつの間にか開き直っていた私は、胸が早鐘を打つのを感じつつ、彼のあとに続いて家を出た。




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