副社長とふたり暮らし=愛育される日々
いやでも、私に男性経験がないというのは、副社長じゃなくてもわかるのかもしれない。

メイクをしたりキレイな服を着たりして、外見をいくら“いい女”に見せていても、本当の自分を完璧に隠し通すのは難しいから。

やっぱりあの時断ればよかったと、私はつい数週間前のことを思い出しながら後悔した。


 * * *


「いいねー可愛いよ、りらちゃん。次、こっち目線くれる?」


可愛いオープントゥのパンプスを履いた足元を見下ろしていた私は、カメラを構える男性に目を向ける。カシャ、カシャとシャッターを切られるたび、新しい自分になれるようで心地良い。

おだてるような言葉を投げかけられるのも、最初は照れてしまっていたけれど、今ではビジネス上のものだと承知している。


「うーん、もうちょっと色っぽさがほしいなぁ」


……こ、これもビジネス。少々残念そうに言われるとグサッと来るけど。

自分の思う色っぽさをなんとか引き出して、何十枚も撮られた末、ようやくOKが出された。

こうなるのは仕方ないこと。なぜなら、本業はモデルじゃないし、素の私は色っぽさを出せるような甘い経験なんて何もしていないのだから。

< 5 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop