副社長とふたり暮らし=愛育される日々
驚きと困惑でいっぱいになる私を、副社長はほんのわずかに眉を下げて見つめる。


「なんか放っておけないんだよ。昔の自分を見てるようで」

「昔の、副社長?」


私が首をかしげると、彼は小さく頷きながら腕を組み、キッチンの壁に軽く背をもたれて話し出す。


「俺の両親は、小学生の時に離婚しててさ。俺は父親についてったけど、仕事仕事でほとんど相手にされなかったから、困ったことがあっても頼りづらかった。瑞香を見てると、ひとりでなんとかしようとしてたあの頃の自分を思い出して、助けてやりたくなる」


抑揚のない声で話す副社長は、昔を思い出すようにどこか遠い目をしている。彼の家庭環境も決して恵まれたものではなかったのだと初めて知り、少しだけ胸が苦しくなった。

この人も、どうしようもなく寂しい思いを抱えていたのかもしれない。そう思うと、遠く感じていた距離が、少し縮まったような気がした。


「それに、お前が愛情に飢えてるのもわかるし」

「飢えてるって……まぁ、そうなんですけど」


つけ足されたひと言に一瞬反論しそうになったけれど、間違っていないので口ごもりつつ肯定すると、副社長はクスッと笑う。

そして、微笑みは絶やさないまま、真剣なものに変えた眼差しをまっすぐ私に向け、口を開く。


「これから、一緒に暮らさないか。お前に足りない愛を、俺が与えてやる」

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