謎解きソルフェージュ
第五/水埜 泉の独白
牧紀明ほどどん欲な人物を、知らない。
と泉は断言できる。

彼は泉にとって母親の従兄弟にあたる。

学究の徒といえば聞こえはいいが、そのためなら手段を選ばないからタチが悪い。

彼との付き合いは親戚という枠をこえて、長い。

水埜 泉は、おそろしく気難しい子どもだった。問題児といってもいい。

自己と他者とのあいだに、幾重にも溝を掘り、柵を設け、何人も、両親でさえ立ち入らせようとしないのだ。

教師、児童相談所、カウンセラー・・・あらゆる専門家、施設の存在を泉は平然と拒絶した。ときに暴力行為にも訴えた。
ほとほと困り果てた母は、自分の従兄弟である牧紀明に助けを求めた。

彼の泉への処しかたは、まあ一風変わっていた。
「これ、けっこう面白いよ」
と差し出したのは、一本の古い洋画『E.T.』。

泉のいる前で牧紀明はまず彼の母に、泉を学校に行かせようとするのをやめるように進言した。
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