謎解きソルフェージュ
「泉くんにとっては学校の授業なんて、筋の分かりきった陳腐な映画を、スロー再生で無理矢理見せられているようなものだ。
どれだけ苦痛かわかるだろう」

泉が自分の地平で最初に認識した他者が、牧紀明だった。

自分にも帰る星があったら———『E.T.』を観ながら、泉は思った。

不運にも、異星人の住む星に取り残されてしまったE.T.。
知的レベルも能力も低い異星人たちに囲まれて、どれだけ孤独だったことだろう。

友達になる少年は悪いヤツじゃないけど、しょせん住む惑星が違うのだ。

帰る星をもてないまま、泉はほとんど学校に行くことなく、義務教育を終えた。
年齢を重ねてゆけば、この星で生きてゆくための処しかたも、最低限は身についてきた。

牧紀明は泉にとって、同じ思考の速度で会話することができる、数少ない存在だった。

心というより、彼とは知を共有したのだ。
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