純情シンデレラ
「そうか・・・。それであの時、君は駅長さんと日暮警部の話をしながら、やけに嬉しそうな顔をしてたんだな」
「そうです。お父さん、原稿が捨てられたと聞いたときには、お母さんのことを“こんちくしょう!”って思ったらしいです。そして、“あれ以上の力作は、もう二度と書けない”と思うくらい、どっと疲れが出たんですって。だけどその気持ちは一旦置いといて、書き直しをしているうちに、結局最初に書いていた内容と、全然違うものが出来上がったそうです。いくら自分で書いたものとはいえ、全部覚えていないのは当たり前だし。でも書き直したほうが、結果的には出来が良かったし、追い詰められたおかげで、お父さん自身も納得いく、“あれ以上の力作”が初めて書けたから、お母さんには感謝してると言ってました。今私たちがしていることって、量的には全然、あのときのお父さんには及ばないけど、状況は似てるなって。ふと思い出して、つい笑みが出てしまいました。そうそう、お父さんはこうも言ってました。“締切を守るには、他の誰でもない、俺が書くしかないんだ、その一心でひたすら書いた”って。“でもあんなことはもう二度とごめんだ”とも言ってましたけど」

あのときのお父さんのしかめ面を思い出して、私はクスッと笑った。

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