純情シンデレラ
確認するとしても、すぐ終わる距離だ。
手間がかかると言える程のことでもないし。
上野課長が言ったことを信じていないのでは、決してない。

昨日、松本さんをアパートまで送ったはずの課長が、時計屋さんの名前を覚えていなかったのは(でも合っていたとも言える)、そう何度も松本さんち(ここ)に来たことがないから。
しかも課長はいつも車だ。
結局、店の名前よりも、「商店街に時計屋は1店しかない」ことの方が、記憶に残っていた、ということだろう。
たぶん、自他ともに方向音痴だと認めている松本さんも、そうやって覚えているのかもしれない。

再び大田時計店の近くに戻ってきた私は、店の上を見た。

1階が店舗で、上に2・3・・4階建か。
エレベーターはなさそうだ。
・・・大丈夫かな、松本さん。
足を怪我してるなら、階段の上り下りが大変じゃないの?

実は、ここに来て松本さんちへ行くのをためらっていたけど、そんな場合じゃないと思い直した私が、思いきって一歩前―――松本さんちの方―――へ踏み出した、そのとき。
店舗横にある住居用の階段から、あでやかな姿をした姫路さんが降りてきたのが見えたので、私は咄嗟に後ろを向いた。

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