純情シンデレラ
「わざわざすみません。松本さんはまだ歩きづらいのに・・・あのぅ、松本さん?」
「なんだ」
「バッグは確かに受け取りましたので、そろそろ手を離してくれませんか」
「君はさっき、“自分が見たものを信じているだけだ”と言ったな。ならあのとき、君が感じた気持ちも信じないと言うのか」
「あのとき、って」と呟く私に、松本さんは「分かってるんだろ」とぶっきらぼうに言い返した。

確かに私は分かってる。松本さんが言った「あのとき」のことを。
あのとき、松本さんちで、この人の力強い心臓の鼓動を、確かに私は感じた。
そしてあのとき私は、松本さんと、時間だけじゃない、他の何か大切なもの―――安心感や絆のようなもの―――も共有したような気がした。

あのとき沸き起こった気持ちは、生まれて初めて感じたもので、だから最初はビックリしたけれど、とても力強くて、生きてることが、とても・・・とても嬉しいと思った。

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