純情シンデレラ
「・・な、なんですか」
「これは君の機嫌を取っておこうなんて思ってやってることじゃない。約束したからやってるんだ」
「じゃあ姫路さんとはどうなんですか?松本さんは、姫路さんとも約束があったんじゃないんですか」と私が言ったのには、れっきとした理由がある。

なぜなら、私が会社の出入口で松本さんの姿を見たとき、松本さんのそばには姫路さんがいたからだ。
でも私がその現場を見たのは、ほんの3・4秒くらいのことで、姫路さんはすぐ豪華な黒塗りの車に乗って、行ってしまった。
だから、松本さんが本当に私を待っていてくれたのか、実は分からなかった。
私のことを本当に待っていてくれたとしても、自分から「家まで送る」と言った“約束”だったから、仕方なく待っていたのかもしれない。
それか、「実は他の約束ができてしまったので、君を送ることができない」と言いそびれてしまって、結局送らざるを得ない“現状”なのかもしれない。
松本さんって、そういうところは律儀に仁義を通す人のようだし。
「直線的に真面目な男だ」という宇都宮さんの批評に、私も納得しているし。

あのとき松本さんは、姫路さんとデートをする約束をしていたんじゃないかしら。
でも私を送ると先に約束してしまったから、「けんじょう君を送った後でよければ会おう」とか言って・・・。

「良くってよ!」と、嬉しそうに答えている姫路さんの美麗な姿まで鮮明に想像できてしまった私は、手すりを握っている手に、思わずギュウッと力が入ってしまった。

< 80 / 530 >

この作品をシェア

pagetop