失恋相手が恋人です
萌恵と吏人くんに迷惑をかけてしまった日から数日が経って。

二学期が始まった。

あの後、迷惑をかけた上にデートを台無しにしてしまったことを吏人くんに謝って、課題の本を借り直したりして。

毎日をいつものように過ごしているようで、でも頭の中には萌恵に言われたことがいつもあった。

……そもそも私の場合は存在すら認識してもらえていないんだけど。

まずはそこからなんだけど。

そんなことをあれこれ考えながら、残暑厳しい通学路を今日も歩いていた時。

「ちょっと聞いたっ?」

すれ違う学生の噂話が耳に入ってきた。

「四回の東堂先輩、歩美先輩と付き合い出したんだって!」

「ええっ、ウソっ
ショック!本当に?何でっ」

「本当、本当っ
だって私、昨日二人が手を繋いで歩いている姿見たの!
思わず、付き合ってるんですか~って突っ込んだら、普通に肯定されちゃってっ」

「ええっ、そうなの?
ショック~、私、東堂先輩に憧れてたのにっ」

「まぁ、歩美先輩だしね……
仕方ないよね……勝てる気がしないわ……」

「……だよね……」

二人の会話が最後まで耳に入ってこなかった。

……歩美先輩に付き合っている人がいる?

桧山くんじゃなくて?

あれだけ綺麗な歩美先輩だから、好きな人や彼氏がいてもおかしくないし、その可能性を考えたことがなかったわけじゃないけれど。

チャンス、とか思うより、ただ呆然として、桧山くんはどうなるんだろうと単純に思った。

正門をくぐったら、あちらこちらで歩美先輩の噂がされていた。

「沙穂!」

萌恵が走ってきた。

「ちょっと、聞いた?」

もどかしげな萌恵に頷いた。

「歩美先輩のこと?」

「そう、って早いね。
いつもこの手の噂話は知らないのに」

「さっき、歩いてたら噂話している子がいたから偶然聞いちゃって……」

「……沙穂、桧山くんにはショックで辛いかもだけど……言い方悪いかもしれないけど……チャンスだよ?」

真剣な面持ちで、萌恵は私の手をぎゅっと握った。

「……でも」

「桧山くんが歩美先輩を好きだって確信はないんでしょ?
更に言うなら、そのことに気づいてる女子はどれだけいる?
今、桧山くんの気持ちに寄り添えるのはきっと沙穂だけだし、それをチャンスにして近づいて!」

段々声が大きくなっていく、萌恵を慌てて引っ張る。

「そ、そうはいっても……何かそれを利用するって……気が進まないというか……。
そもそもどうやって話しかけたらいいのか……」

「何言ってるの!
恋愛はタイミングなんだよ?
うだうだ悩んでる間に傷心の桧山くんが、たまたま告白とかされちゃって誰かと付き合い出したらどうすんの?」

怖い形相で萌恵が私を叱る。

……桧山くんが誰かと付き合う。

その様子を想像しただけでズキリと胸が痛い。

でも前に踏み出す勇気もなく、言い訳を並べている私は本当に意気地無しだ。

「……そうだよね。
わ、私、桧山くんに話しかけてみる!」

「そうだよっ。
頑張ってっ!
今日のお昼休みに本館に行っておいでよ、それか吏人に桧山くんと話ができるように頼む?」

「えっ、今日?」

いきなりの展開にビックリする。

「当たり前でしょ、善は急げって言うでしょ」

「……う……ハイ……」

私を応援してくれているのだろうけれど、睨み付けてくる萌恵の視線が怖すぎて、私は反射的に頷いてしまった。








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