失恋相手が恋人です
「沙穂、さっきから私、結構大きな声で叫んで、スマホにもかけたのに、全然気がつかないんだもん」

四人がけのテーブル席に到着した私に萌恵が言う。

「えっ、そうなの?
ごめん、全然気がつかなかった……」

慌ててスマホを斜めがけバッグから取り出す私。

確かに何回か萌恵からの不在着信が残っている。

「沙穂はこれだからなぁ~
本当になかなか連絡とれないんだから……」

呆れ顔の萌恵。

「ごめん、ごめん。
それにしても萌恵、よくこの席、確保できたね」

萌恵が座っているのは食堂の窓際の席。
明るく、日当たりも良いので人気の席だ。

「たまたま二限目が休講になってたの。
全然知らなかったから、時間をもて余しちゃって。
ここで来週の課題作成してたの」

「ふーん、そうだったんだ。
でもおかげで助かったよ~
本当、この時間、いつも混んでるよね」

「うーん、今日はそれだけじゃないと思うけどねぇ……」

課題の教科書に目を向けながら、萌恵が言った。

「……?」

不思議顔の私を見て、萌恵はニッコリと微笑んだ。

可愛い萌恵の笑顔。

と、いうか、萌恵自身が本当に可愛らしい。

私と萌恵は同じ文学部二回生。

肩までの栗色のふわふわの髪に大きな二重の瞳。

綺麗な卵形の輪郭に白い肌。

身長一六五センチの私より十センチ低い小柄で華奢な体つき。
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