失恋相手が恋人です
上の空な状態のまま、講義が終わって。

「食堂、行くんでしょ?」

萌恵に声をかけられた。

「……私も吏人と待ち合わせしてるから、一緒に行こう?
さっきの続きも話したいし……」

「う、ウン」

二人で並んで教室を出て、人気が少ない階段を選んで降り始めた。

「……沙穂、私、さっきの話を聞いて思っていたんだけど……。
沙穂はそれでいいの?」

「……え?」

足を止める私。

そんな私を見上げながら階下から萌恵が言う。

「沙穂が話してくれた桧山くんとの条件って、沙穂は桧山くんに一番近い、彼女みたいな存在にはなれるけど、絶対に彼女っていう特別な存在にならないってことだよね?」

気付いていなかったわけではない、萌恵の指摘。

名前で呼んでくれたり、笑顔を見せてくれたり、急激に変化した距離感だけど、肝心な部分は曖昧なままだ。

そう、私は告白しようと思って彼に会いに行ったけれど。

彼の涙に、彼のやるせない表情に何も言えなかった。

何も、私の気持ちなんて入り込む隙間もない気がしていた。

そして私の気持ちを言うことが、卑怯な気がした。

だから私は目茶苦茶な提案をした。

私は歩美先輩を好きな葵くんに失恋したから。

葵くんは歩美先輩に失恋したから。

勝手に失恋仲間で括って入り込んだ。

それすらも卑怯だったかもしれないけれど。

あの時はそれしか思い付かなかった。

頭がまわらなかった。

そう。

お互いに好きな人が出来たら別れる、なんて。

私はもう既に条件違反をしている。
< 40 / 117 >

この作品をシェア

pagetop