つま先で一歩
置いてかれた気がして呟くと須藤さんは眉を寄せて表情でそうだろうかと尋ねてくる。

寂しい思いを抱えたまま、そんな気持ちをごまかすように私はグラスに口を付けた。

目の前には私たちが過ごしている街の夜の顔が広がっている。

でももっと手前に暗闇の窓ガラスに映った自分たちの姿も見えるのだ。

スーツもようやく気慣れてきた頃、着せられてる感はなくなり自分でもそれなりに会社にも馴染んできた。

学生の頃に比べたら服装も環境もかなり大人になったと思ったのにな。

「私はまだ足りないか。」

意識していた姿勢を崩して背中を丸めるとポケットの中身を感じて少し前の記憶が甦ってきた。

気合を入れ過ぎた、いや、妄想が走り過ぎて浮かれすぎたんだ。

「まあでも、これで何となくの感覚は掴めた気がするし来てよかったな。帰って案を練らないと。」

進むべき道が見えた須藤さんは嬉しそうに頷くと残りのアルコールを飲み進める。

「私もです。今までのが駄目な理由も何となく分かったし、とりあえずは進めそう。」

「気合入れ直さないとな。」

「はい。いいものを作りましょう。」

仕事だと割り切れば触発されてか私も俄然やる気が出てきた。頑張らないと。

この景色がご褒美だと、そう労いながらお酒を飲めるレベルに行きたい。

社会勉強だとちょっと奮発して高いホテルのバーに決めて良かった、暫く来られないだろうし景色も雰囲気もしっかり自分に焼き付けておこう。

グラスを持ってうんうんと頷いていると横から不思議そうな声がかかってきたが気にしない。

自己満足、最高だ。

「森川さんの家ってどの辺?もう遅いし送ってくよ。」

会計を終わらせながらいつもの雰囲気に戻った須藤さんが声をかけてくれた。

断ったがご馳走してくれるという事だったので素直に甘えたところだ。

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