Mysterious Lover
28. ほどけた糸
嘘でしょ……なんなのこれ?
急速に力が抜けていく手足を必死に動かして、わたしは壁にすがりつくようにしながら前へ進んだ。
視界のゆがみは次第にひどくなって、もうマーブル模様みたい。
まさか……これって料理に、なにか……
「念には念を入れて、正解だったな」
工藤さんの声が、後ろから迫ってくる。
やだ……やだ……!
早く、早く行かなくちゃ!
どっちからきたっけ?
お願い、玄関はどこよ!?
明かりをめがけて進むと、またリビングに戻ってきてしまっていた。
「そろそろあきらめてもらおうか」
わたしはついにぺたんと尻もちをつき、数歩の距離にいる工藤さんを見上げた。
ジリジリと後ろへお尻をずらしながら、懸命に言葉を探す。
時間稼ぎになるような、何か……何か!