明け方の眠り姫
「フランスに行くことになったそうで、出立前に、来店してくださったんです。その時、なんだか夏希さん元気がなくて何かあったのかなって」



心配で、と言った綾ちゃんの声を半ば茫然と聞いていた。


夏希さんの方から僕に会う方法なんて、何もない。
例え、会いたいと思ってくれたとしたって。


自分が余りにも薄情な、不義理なことをしていたのだと今更になって気付く。


どこに行けば会えるのかも、わからない。
このまま待ってれば、いつか日本に帰ってくるのだろうか?


どこで?
それはいつ?


こちらからは何もできない、わからない。
そんな状況になって初めて、それがどれだけ不安なことだったか。


夏希さんも、不安に思っていただろうか。
僕は本当に、馬鹿だ。



「これ、今朝店に届いたんですが」


マスターが、すっと一枚のエアメールをカウンターの上に差し出した。
異国らしい街並みの絵葉書で、数行の僅かなスペースに日本語で何かが書かれてあり。


手に取って、文字さえ弾んで見えるその内容にぴくっと頬が引き攣った。
くるりと裏を返せばアルファベットで滞在先のアドレスが書かれてあり、どうやらホテルなどの仮住まいのものでは、なさそうだ。



「すみません。これ……暫く貸してください」



この時僕は、上手く笑えていた自信はない。
兎に角、一分一秒でも早く捕まえに行かなくては。


それだけだった。


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