明け方の眠り姫
――――――――
――――
どうしてだ。
どうして
なんで?
どこにいっても、夏希さんの姿が見当たらない。
画廊の入り口の張り紙は、どういうわけか閉店を知らせるものだった。
嫌な予感がしてすぐにマンションに向かったが、いくらインターホンを鳴らしても人の気配もない。
表札は以前から掲げられていなかったから、それだけではどこかに引っ越したとは判断できない。
だが、新聞受けには、電気の検針票やいつ投函されたかわからない広告が挟まったままになっていた。
「夏希さん?」
どこに
どこに行っちゃったんだ。
こんなことになって、初めて気が付いた。
会いに行けなくても携帯番号を知らなくても平気でいられたのは、画廊に行けばマンションに来れば、夏希さんが必ずそこにいると思えていたからだ。
わからない、どこに行けば会えるのか。
もしかしたら、もう二度と会えないのかも。
真冬だというのに、じっとりと嫌な汗が衣服の下で噴出し、心臓が痛いくらいに跳ねていた。
もう、後はお気に入りのあの店しか手がかりがない。
カフェまでの傾斜の道を走りながら、気が気じゃなかった。
つい乱暴に扉を開けたらいつもよりも派手にカウベルが鳴って、綾ちゃんが驚いた顔を向けた。
「あれ……要さん? いらっしゃいませ」
余り騒いでは店に迷惑だ。
そう思いすぐに息を整えようとしたけれど、つい足は速くなる。
カウンターの中ではマスターも不思議そうな視線を向けていた。
「お久しぶりですね」
「こんにちは。夏希さん、最近ここに来てる?」
綾ちゃんとマスターの顔を交互に見て、つい忙しなく尋ねてしまう。
頼むから、来てると言ってくれ。
以前と同じくらいに、朝なり昼なり。
だが、二人は驚いたように顔を見合わせた後、綾ちゃんが「やっぱりご存じなかったんですね……」と眉尻をさげて言った。
「どういうこと? 画廊も閉まってるしどこに行ったか全くわかんないんだよ」
「……夏希さんは、あの画廊はもう閉められるとかで」
戸惑う綾ちゃんに変わって、教えてくれたのはマスターだった。
「閉めるって、休業ではなく? ほんとに閉めちゃったってこと?」
「はい、海外で仕事をすることにしたとかで」
「は?」
……海外?
待ってよ、僕何も聞いてないけど。
前から決まってたのか、それとも急遽?
僕には何も知らせてくれなかったと、理不尽な気持ちを抱いてからすぐに気付く。
先に距離を置いたのは僕の方で、会うのはいつも僕からだった。