明け方の眠り姫
「うそっ!?」
指摘すると、悲鳴のような声を上げてバタバタとキッチンを出て行く背中を見送った。程なくして洗面所だろう辺りから叫び声が聞こえてくる。
「なにこれ、ひどすぎる!!」
「ぶはっ」
今頃必死で顔を洗っているのだろうと思うと可笑しくて可笑しくて、僕はまた吹き出してしまった。
夏希さんが戻って来たのは、洗い物を終えて何か作ろうかと冷蔵庫の中を勝手に覗いていた時だった。
名前を呼ばれて振り向くと、メイクを落としてすっぴんになった彼女がそこに立っている。
瞼が少し腫れて赤いけどいつもよりも幼く見える素顔が思っていたより可愛らしくてつい頬が緩んだ。
「……やば。夏希さん、ちょーかわいい」
「んなわけないでしょ。私、すっぴんだよ」
「しかも上下スェットだし」
この人、年幾つだっけ?
僕よりは年上には違いないけど、メイクしてない方が格段に若く見える。
上下スェットという緩い感じが、普段は見れない姿だということを意識させられて尚更いろんなことを期待してしまう。
この人ちょっと、警戒心緩み過ぎじゃないだろうか。
「これが一番楽ちんなのよ。家の中でまで気取っててもしょうがないでしょ?……ところで要くん、何してるの?」
そう問われて、うっかり色んな妄想に走りかけてた脳内を現実に引き戻す。
冷蔵庫の中で適当な食材を幾つか手に取って、キッチン台に乗せ乍ら答えた。
「夏希さん、あれだけ泣いたからお腹空いたでしょ? 僕がごはん作ってあげる。外に食べに出てもいいけど帰ったばっかだし。それに夏希さんそんな気分でもないでしょ?」
「えっ、ちょっと。そんなことまでしなくてい――」
とんとんとん、と包丁の音が鳴る中、また彼女が何か遠慮するような言葉を言いかけたけど、それを遮るように腹の虫が「ぐぅぅぅ」と鳴った。
「……体は正直だね、夏希さん」
そう言って笑うと、今さら何を恥ずかしがるのかまた顔を真っ赤にした。
もうここまで見られちゃったら開き直ればいいのに。
今日の夏希さんは赤くなったり青くなったり随分と忙しい。