明け方の眠り姫
案外野菜が残ってるってことは、たまに料理に挑戦しようと思ったりはするのかな?


但し、余り長続きはしないようで葉物野菜に比べて長持ちするはずのジャガイモやニンジンが、しわっしわになっていた。


野菜のポトフとオムレツを美味しそうに食べてくれる夏希さんに、からかい半分で僕は言った。


「ね、夏希さん。そんなに美味しいなら、僕が毎日作りに来てあげましょうか。……夏希さんのために」

「はっ?! 要くん、何言って……ごほっ!」

「ああ、夏希さんがそんなにがっつくから」


慌てて気管に入ったのか、咳き込んだ背中を撫でながら、内心でちょっと浮かれる。


何馬鹿なことを、と冷たい目で見られるかと思いきや、案外本気で受け取ってくれたのかと思ったのだ。


しかし、少し息を整えてから気を取り直した彼女の言葉は思いもよらぬもので、少しばかり傷ついた。


「あのね要くん、画廊の経営なんてしてるから、私がお金持ってるって思ってるのかもしれないけど……。私、全然よ」


何のことかと反応が遅れたが、次の瞬間には意味を悟る。
どうやら彼女は、僕がお金目当てで近づいていると思ったらしい。


「ひどいなあ、夏希さん。僕、お金目当てなんかじゃないよ」


訝しい表情の彼女を宥めるように、目元に指を伸ばして撫でた。
そこにうっすらと隈があるのはいつものことで、今日は加えて瞼まで腫らして忙しいことだと苦笑いをする。


「あ、あの……要くん?」

「そんなんじゃないよ。夏希さん、『flower parc』 でも疲れた顔してること多いし。あまり眠れてないのかとかご飯食べてないのかとか、僕いっつも思ってた」


決して下心がないなどと、白々しいことは言わないけれど。
断じてお金目当てなどではなく、夏希さん自身に興味があるからで、だから彼女がずっと疲れていることにも気付けたのだ。


なんていうのは、ズルい言い分だろうか。


「……そんな、ただ単に忙しいだけよ」

「うん。だから心配してる、いつも」


途端、まるで内側で燻っているものがじわじわとにじみ出るみたいに、彼女の目が潤んだ。



「要くん……」


その涙の理由が、今日のあの結婚式なのかそれとも普段から彼女を疲弊させてるものなのか、僕には推し量ることしかできないけれど。
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