欲しいものがある。

ざっと数十枚のプリントをやれと鬼畜発言を呈した桜庭先生。


しかもそれを二時間の間でやってしまえという。



理不尽きわまりない顔を隠しも出来なかった私は、鬼畜、鬼畜、と心のなかで復唱する。



(あれ?)



私が見たのは、自然な笑みを見せる桜庭先生だった。

さっきまでどす黒く、でも無の表情しか知らなかった桜庭先生には、こんなに素敵な笑顔を持っていた。


先刻の問い詰めようからは思いもしないほど、優しくて。



冷徹な眼差しから一変。

そのかわりようのせいか、妙な鼓動が鳴らされている私の体。


その胸のざわめきとやらを、無視して、早速プリントに手をつけた。

実際に学園祭に来られても困るが、プリントの山を全て押し付けられるのも困る。

だからこそ、鉄は早いうちに打て、なのだ。


対処しておいた方が、後々楽を見る。

桜庭先生からの的確なアドバイスも耳に入らず、ひたすら解き続けた。

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