きらきら
初雪が降った朝。堀田君がまた事務所に朝からやって来た。
なるべく話しかけられないように必死で仕事に励むふりをしていたけど、堀田君も井上さんのパソコンと悪戦苦闘中だった。「井上さーん。自分のおやつをパソコンに与えたでしょう食べ過ぎで動かないよ」「失礼ねー。おやつは全部自分で食べるわよ」上の人達が役場に出かけているせいか、和やかに仕事をする堀田君。チラリと彼を盗み見ると自分のタブレットでマニュアルを見ながら、口はふざけてるけど目は真剣でキリリとしている。バスケをやってる時と同じまなざしに時計が逆回りする。ジッと見てるとふいに堀田君は顔を上げて私と目を合わす。なんで私の視線がわかったのだろう。私はうろたえて目を泳がせいたら「もう少しでできるから、佐々木さんコーヒーお願い」って言われてしまった。盗み見の罰かもしれない。私は立ち上がり給湯室へ行って濃いコーヒーを彼に淹れる。☆るいーず☆なら彼ともっと楽しく会話できるのに。
事務所に残っている人達の分も入れ、最後に井上さんの席に行くと心臓が止まりそうになった。
「ありがとう」って井上さんが言い「本当に淹れてくれた」って堀田君が言ったけど、私はふたりの言葉も聞こえず必死でコーヒーをのせたトレイを落とさないようにするのと、叫び声をあげないように神経を集中させた。
井上さんのパソコン画面に☆るいーず☆が映ってる。
ジッと私が見ていると井上さんが苦い顔と苦い声で私に説明する。
「これさー。このプロフィール?って顔の写真あるでしょ?これ、たぶん友達の娘さんの写真なんだよね。読者モデルやってるんだけど、ほら私がツィッターやるきっかけになった友達の話」
「井上さんは挫折したんでしょ」
「それは置いといて」
井上さんの堀田君との掛け合い漫才のような会話がガンガン頭に響き、吐き気とめまいが一気に襲ってきた。
「拾い画像でしょ。悪質だよね犯罪じゃない?この☆るいーず☆って人に言ったの?」
「うーんわかんない。本当に絶対そうかって言われたら微妙みたいで、はっきりしてないから調べてる最中かも。でもさーこの子かなり痛いわー。『年収一千万以下の男の子って何が買えるんだろう』だって、バカみたい」
「俺は何も買えないじゃん」
ふたりの笑い声が事務所中に響き、他の人達もやってきてパソコンを覗き「バカな女の子だねー」って笑う。
私は膝から崩れて倒れそうな身体を机に手をかけ必死で押さえる。
気持ち悪くて吐きそうだ。