クリスマスイブの贈り物
「すいません。急用が出来たんで上がっていいですか? あと、サンタ衣装、借りていきます」

「おい寺島っ」

ホテルに着ていけるようなスーツなんてない。
だけど、今日は君のためのサンタだ。

配送区域にあるホテルは、そう遠くはない。
電車に乗って、走って、サンタ衣装の中の肌は汗が滲んできていた。

入ってすぐホテルのレストランを覗く。
カップルだらけの中、正装した女が独りだけいるテーブルがある。
ウェイターが怪訝そうに俺の傍にやってくる。

「あの、申し訳ありませんが本日はご予約のお客様だけで……」

「サプライズだよ。メリークリスマス」

「あのっ」

引き留めるウェイターを押しのけて、俺は愛奈のもとに近づく。
彼女は周囲のざわつきから、ようやくこちらを見たので、俺はひげを外して正体を見せる。

途端、彼女の目に浮かぶ涙。
それが零れ落ちないように堪えるその顔は、たぶん俺が最初にこいつに恋に落ちた、あの時と同じ。

「馬鹿なのかお前は」

「な、なによ」

「自分でホテル取って、独りディナーとか寂しすぎるからやめろ」

「あんたこそ何しに来たのよっ」

「俺はお前が……」

小さな便箋を見せる。

「お前が呼んだから。来たんだよ、この恋愛脳女」

次の瞬間、愛奈は俺の腕の中に飛び込んできた。

「だってっ、ホテルもディナーも自分の力で何とかなるけど。……好きな人だけは佑生がいないと無理だったんだもん」

とても二十八歳とは思えない、馬鹿でイタイ女だけど、俺はこいつが、とても愛おしくて仕方ない。

「……メリークリスマス」

「メリークリスマス」

抱きしめたら、周りから歓声が上がった。

とりあえずおかけください、とウェイターには冷たい目で見られ、愛奈のテーブルは、サンタとの共演と言うおかしな状態になった。

それでも愛奈は笑っている。

理想の聖夜とは違うだろうけど、これはこれで悪くないだろ?


【Fin.】




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