注文の多いクリスマスイブ

【終わったら、クローゼット開けてみて】

またかと思いつつ、仕事は大丈夫なのかと心配になる。車のディーラーに勤める智宏は、休日の今日はそれなりに忙しいはずだ。
いつもと違う彼の行動にどこか落ち着かなくなり、メイクの手を止めて寝室のクローゼットを開く。

「えっ?何コレ」

見慣れた仕事着の中に、一つだけ目をひくブルーのワンピースを発見して、驚きのあまり独り言が出た。
見覚えのない服がいつの間にか自分のクローゼットに掛けられている。それも、結婚式とかお呼ばれに着て行くような上質なものだ。ポカンと立ち尽くす私の手の中で、携帯がまた音を立てた。

【それ、クリスマスプレゼント。今日はそれ着てきて】

その驚愕の内容に、既読スルー出来ずに本日初の返信をする。

【夕食って、萬福軒じゃないの?】

行きつけの萬福軒(まんぷくけん)の油で黄色く染まった壁紙と、ツルツルとよく滑る床を思い浮かべる。あの店内でこのワンピースはかなり浮きそうだ。いや、別に萬福軒をディスってる訳じゃない。味は、美味しいの!味だけは……

【今日は、別の店にした】

心の中で萬福軒(名前も素敵でしょ?)のことを擁護しているうちに、携帯が鳴る。私もすぐに返信した。

【私、中華がいいって言わなかった?】
【聞いた。だから中華にした】
【新しくいいお店でも見つけたの?】
【まあ、そんなところ】

やり取りしているうちに、だんだんと着てもいいかなと思えてきた。この際、どんなに油ぎった店内でも、浮きまくっても、構わない。
センスがいいから、多分店員さんに薦められた通りに買ったのだろうとは思う。それでも、彼が初めてサプライズでくれたプレゼントに私は自然と前向きな気持ちになっていた。
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