甘い音色は雪で蕩ける。
話しながら、胸のドキドキが収まらない。
こんな、優しい声をしてるんだ。
大きいけれど、私の背に合わせてちょっと屈んでくれる仕草も優しい性格が現れていて、胸がほっこりする。
目の前に居る。
いつも目を閉じて聴いてくれていた彼が、私の目の前に居て、私の名前を呼んで、笑ってる。
「辞めてピアノ教室の先生になると聞いて、もうピアノを辞めるんじゃなくて安心した。……でもこのホテルで貴方のピアノが聴けなくなるのは寂しい」
彼が外を指差した。
「タクシーが来るまで、ちょっと庭で話せませんか? ここは人目が」
ちくちくと感じる従業員からの視線に、苦笑いしながら私は心臓の音を聞こえないように必死で押さえながら頷いた。