甘い音色は雪で蕩ける。
クリスマス仕様になった庭には、ライトアップされた雪のお城ができていてカップルが記念写真を撮っていた。
「家族で毎年来るんですが、母と父は趣味のスキー、妹は恋人とテーマパークに、俺はこの祖父が作ったホテルが好きで中で過ごし、毎年一人でぶらぶらしてました」
「分かります。うっとりすぐるらい素敵なホテルですよね、四年間出勤してましたけど、四季の変わり目の度に私も胸がときめきました。飽きなかったですよ」
「……同じです。俺は貴方のピアノを飽きることはなかったし、毎年聴けるのを楽しみにしていた。その小さな体から奏でるダイナミックな音、時に甘く時に激しく心を揺さぶられました」
「ケイさん……」
褒めてもらえて嬉しい。私の短かった4年間の歴史を、彼は毎年聴いてくれていたのだから。
「好きなことを職業にするのは、苦しいと周りから言われ趣味で留めておくのが良いのだと聞かされた。だから、このホテルは好きだけど祖父から譲り受けるのは渋っていたんです」
「ケイさんがここを継ぐの?」
「迷ってましたが、好きなことを楽しそうにしている君に勇気をもらって決めました。――でも今度は君が去ると聞いて、戸惑ってる、かな」
彼の言葉に私は首を振った。