甘い音色は雪で蕩ける。

「違います! 私、嫌いとか苦しいから辞めるんじゃないです! 私が通っていたピアノ教室の手伝いをしているうちに、もっと楽しさを教えて行きたいって思って。両立が難しいから辞めることにしただけで――」

言い終わる前に、彼に腕を掴まれて引き寄せられる。

彼の胸の中は、今にも雪が降りそうな夜の下、温かくてそして、私以上にどきどきと心臓を鳴らしていた。

「良かった。――でも寂しい。矛盾してすいません」
「ケイさんっ」

「今から抱き締めますが、嫌なら抵抗してください。あと心臓が五月蠅いなら。けれど」

貴方の四年間にどうしてもお礼が言いたかった。

ぎゅうっと抱きしめられ、彼の温もりに包まれながら抵抗なんてできなかった。

貴方が毎年来てくれるのを私も楽しみにしていた。
窓辺で私のピアノを聴いてくれているのが嬉しかった。
この胸の音も、二人で伴奏しているみたいで恥ずかしいけれど嫌じゃなかった。


夢みたい。

触れたことがなかった私達が、同じ気持ちを持っていたなんて。

「明日、貴方を浚いに行っても良いですか?」

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