甘い音色は雪で蕩ける。
しんしんと雪が降るホワイトクリスマス。
バーから見える景色は、真っ白。真っ白な中、宝石のようにネオンが光っている。
「今日は帰れるかしらね。空いてる部屋もないのにどうしよう」
美奈子さんが外を見ながら途方に暮れていたが、私はそれどころではなかった。
雪をイメージしてふわふわの白いワンピースに身を包んだ私がバーの白いグランドピアノに向かうと、すでに彼が座って待っていたのだから。
瞬きをしていないのかと思うぐらい、まっすぐ私を見ている。
深々とお辞儀して、拍手の元演奏するのは、クリスマスにちなんだしっとりと甘い曲。
空から途切れることなく降る雪に、溶け込む様な優しい音色。
貴方が私にくれた優しい音色のように、聴いている人たちにも染みわたればいい。
そう思って奏でた。
最後になるこのホテルでの演奏を。
一日四回ある演奏の中、彼は一度も席を立つことなく私のピアノを聴いてくれていた。
目を閉じていた彼といつも違うのは、あの青い目で見つめられていることだった。
私と彼と、雪の降る音がピアノに乗って奏でられていく。
そんな幸せな時間だった。
四年間の最後の演奏後、席を回って挨拶をした。