【完】『傷跡』
そんな多聞が、である。
普段はホテルといっても、それこそ町外れのラブホテルあたりを使うぐらいで、あとはランドマークや中華街、たまに足を伸ばして鎌倉か江ノ島…というデートが定番である。
しかも。
多聞はバイク乗りであったから、
「振り落とされんように、しっかり捕まっとき」
と、愛車のドラッグスターの後にリマを座らせ、キャプトンマフラーのサウンドを響かせながら海を目指したりする。
それが。
珍しくバロンスタンリーホテルのクリスマスイブの部屋をとったというのは、珍事としかいいようがなかった。
「多聞がバロンスタンリーとるなんて、雪でも降らすつもり?」
「降ったら演出的には儲けもんやけどな」
多聞は多少のことではめげない。
こういう。
何でもおかしがる多聞であったからこそ、リマを受け入れてもらえたのかも分からない。