そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「俺も真由さんのこと、可愛い人だと思ってました。
だから、今日誘ってもらえて嬉しかったです。
じゃあ、これからお互いのことじっくり、」


じっくり知りましょう、と言われる前に、運転席と助手席の間に置かれた九条慎吾の手に、自分の手を重ねた。  

じっくりなんて待ってられないし、そういうまだるっこしいの、大嫌い。


「そんな風に思っていただいてたなんて、嬉しいです」
 

手を握ったまま、九条慎吾の目をただひたすらじっと見つめる。


「真由さん......?」


ただ、ひたすら無言で。  


「あの......っ」


何も言わずに見つめ続ける私に、九条慎吾は困惑しているみたいだったけど、それでも見つめ続けると。

ついに九条慎吾は、決心したように小さく息をはいてから、私を抱き寄せ、唇を重ねた。


それから、観念したように、こう告げた。


「......付き合ってください」

「はい、よろこんで」


......勝った。

勝利を確信しつつも、いつものよそゆき笑顔でほほえんだ。











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