そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
即座にするどいツッコミが入ったけど、なんだかそれに反応する気にもなれない。


「......純粋な気持ちからではなかったかもしれないけど、何も断らなくても良かったんじゃないの?

九条は真由と付き合って良い方向に変わったように見えたし、言わなかったけど真由もそう見えたよ。なんていうか前よりも柔らかくなった。

本気でひとかけらも好きじゃなかったの?」


本気でひとかけらも好きじゃなかったら。
本気で慎吾が残念なだけのダメ御曹司だったら。

むしろ私は結婚していたかもしれない。


「この数日ずっと考えてたのよ」

「何を?」

「もし慎吾が御曹司じゃなくて、何のコネもなくて、貧乏人で、ただの残念なダメ社員でも愛せるかどうか」


小さなボロアパートでも、二人なら幸せかどうか。

トレーニングするための機械に腰かけたまま、同じようにそうしている大輔の横顔を見る。


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