恋のはじまりはスイートルームで
「相手が好きな人なら守らなきゃいけないものなんてありません。だから一緒にいてください!御幸課長のことが好き過ぎて都合のいい夢を見ちゃったわけじゃないんだって、ちゃんと私に教えてくださいっ!!」
とんでもないことを言ってしまったと気付いたのは、課長が本気で驚いて絶句してから。前のめり過ぎて引かれたかもしれないと不安に思っていると、人目のある場所なのにいきなり抱き寄せられた。
「え、か、課長っ」
「今日はクリスマスイブだ。ちょっと浮かれてるカップルがいても多めに見てもらえるだろ」
恋人でなければ決して味わうことが出来ない距離に引き入れてもらえたことが嬉しくて、ドキドキし過ぎる胸が痛い。
「言わせて悪かった。好きだ。本当は帰りたくないし、おまえを帰したくない」
整髪料の爽やかな香りに混じった課長の匂いにクラクラしながら、同じ気持ちでいることを伝えるために恐る恐る抱き返してみると、ふっと幸福そうな吐息が耳を擽ってくる。
「でもいいのか、こっちは本気だ。30男の純情は相当重くて暑苦しいぞ?」
「望むところです。受けて立ちますっ」
告白の返事にしてはまるで色気のない台詞。でも「ますます惚れたな」と言って喜んでくれるのが恥ずかしいけど嬉しくて、大好きですと告げると「俺も」と返される。
「………けどまずったな」
「どうかしたんですか?」
「いや。部屋のグレード見たら本気度が一発でバレるのが微妙に恥ずかしい」
見慣れた『頼れる上司』の顔ではない、素で照れる課長の横顔にますます恋心が煽られていく。
これから向かうのは、好きな人が私のために用意してくれていたというスイートルーム。そこは今の甘く幸せな気分を最高に高めてくれるに違いなかった。
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