極上な彼の一途な独占欲
「彼となにかあるのか」

「…彼って」

「ここのところ様子がおかしいのはそのせいか」


ヒロの名前は出ない。出さなくてもわかっているからだ。

仕事帰りらしい、ピリッとした空気をまだまとっている彼に対し、私は気の抜けた部屋着。太刀打ちできない気がして、意味もなくカーディガンの袖を手の甲まで引っ張った。


「別に」


中途半端な笑いを浮かべる自分が情けない。

伊吹さんの目が、探るまでもなく、私のごまかしを見抜いているのがわかった。彼はなにか言いたげに口を開き、途中でやめて視線を落とした。


「…じゃあ、なんだ、と」


らしくもなく歯切れの悪い口調でそう言い、足を踏み替える。


「言ったところで、お前が答えないんじゃ、俺はもう、どうしようもない」

「あの、本当に、お話しするようなことは、なにも」

「この上、嘘までつくのか」


視線が再び私を捉えた。

なにも言えなくなった。

その目は責めるでもなく、腹立ちを伝えてくるでもなく。ただ『話してほしい』と要求していた。

目をそらすのは私の番だった。


「だったら、話せないことがあると正直に言ってもらったほうがましだ」

「それは…」


言えるものなら私だって全部言いたい。

結城一博が私の元カレで、以前話した手痛い恋愛の相手で、私を酷く振った張本人で、再会して自覚したんですが、傷はまだ全然癒えていませんでした。

そう言いたい。

でも、ヒロは今伊吹さんと仕事をしている。ちゃんとした仕事をして、信頼を得ている。

そこに私のこんな話、持ち込むことなんてできない。

フェアじゃない。

暢子に聞かせたら、甘いとかバカとか言われるのかもしれないけれど。


「伊吹さんにお聞かせするようなことじゃないので」


なにもおかしくないのに、私は笑っていた。

伊吹さんのほうを見ることもできないくせに、バカみたいだ。
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