極上な彼の一途な独占欲
ああそうだ。

やっぱりこれは、私の問題なんだ。

ぎゅっとシャツを握りしめ、声が震えないよう、必死で身体を制御した。


「…なんのことでしょう」


きっとそれなりに冷静に聞こえたと思う。

伊吹さんの視線が、ゆっくりと上がる。数瞬、私たちはお互いを見つめた。


「それが返事か?」


彼の目は、なにを語っているんだろう。

落胆? 軽蔑?

なにも読み取れないのは、私が自分のことで必死だからだろうか。

"返事"

はい、そうです。これが返事です。

私なりのけじめ。今できる精一杯です。

ヒロに会って思い出しました。今はっきり感じました。

私、恋愛したくないんです。

駆け引きも探り合いも、ふわふわ浮かれるのも揺さぶられるのも、嫌なんです。

だからこれが返事です。

私、全力で、なかったことにします。


「なんのことでしょう」


自分がどんな顔をしているのかわからない。

毅然としているつもりなんだけれど、泣きそうに見えているのかもしれない。どうしてかそんな声になってしまったから。

伊吹さんはなにも言わず、しばらく私を見つめた。

射るようなその視線を、気力を振り絞って受け止めないとならなかった。

やがて彼はふっと息をつき、ドアノブに手をかけた。


「わかった」


それだけ言い残して出ていく。

振り返りもせずに。

ホテルの重たいドアがゆっくりと閉まるのを、私は立ちすくんだまま見ていた。

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