極上な彼の一途な独占欲
けれど、そのモチベーションを上げるのも私の仕事だ。

相手が物でなく、人だから楽しいし、苦しみも喜びもあるのだ。

あなたにはわからないでしょうけどね、悪魔!


* * *


「やだ、悪魔だなんて」

「だって、そんな感じしません?」


コスチューム制作会社で仮縫いのチェックを行っている間、デザインを担当してくれる女性とそんな話になった。

ちょうど同世代の彼女は、別の仕事でも伊吹さんと一緒になったことがあるらしく、倉庫から次々ハンガーラックを出しながらころころと笑う。


「前ご一緒したのは、モータースポーツの仕事なんですけどね。伊吹さんの会社が持っているチームの、レーシングギャルの衣装をうちが担当させてもらって」

「へえ」

「そのときは、関係者から閻魔大王って呼ばれてました。もちろん陰で」


私は、すずなりにかかった衣装をひとつひとつチェックしながら吹き出した。


「閻魔!」

「悪魔じゃかわいすぎるんじゃないですか?」

「どんなことして、そこまで嫌われちゃったんだか」

「え? いえいえ、慕われてましたよ、みんなから」


デザイナーさんがきょとんとし、顔の前で手を振った。


「あ、そこの素材、予定と変えたんです。このほうが身体のラインをきれいに拾うので。制作費はキープしてますから」

「了解です。え、慕われてた?」

「はい、まあ怖がられてもいましたけど。それでそのあだ名なわけで」


どこで買うんだろう、といつも思う、全身真っ黒なのにキュートだったりエレガントだったりするコーディネートはさすがだ。今日は思いきりコンパクトなトップスにワイドなボトムで、名付けるならダイナミックセクシー。


「そうです。わかるでしょ?」


相手が暢子なら、同意したくない気持ちをどうにかして表すのだけれど、彼女相手ではそうもいかず、私はあいまいにうなずいて、コスチュームの話に戻った。
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