極上な彼の一途な独占欲
「あ、暢子? いい感じだった。いつでもクライアントさんに見せられるよ」


デザイナーさんのスタジオを出たところで、報告の電話をする。

会社に戻る前にお昼を食べていこう。天気もいいし、サンドイッチでも買って川っぺりのベンチあたりで鳩とたわむれるのもいい。


『よかった。なるはやでお見せしてきて』

「じゃあ夕方のアポもらってみる」


ちょうどコーヒーショップが見えたので、頭の中はすっかりレタスやシュリンプに取って代わられ、私は足取りも軽くランチタイムに入った。


『午後は打ち合わせで埋まってる』

「そうですよね…では明日では?」


サンドイッチの紙袋を小脇に抱え、ホットコーヒーを飲みながら川を目指す。春になれば花見客でにぎわう場所だ。

電話の向こうで少し間があり、かさかさという物音がした。きっと手があくように携帯を肩に挟んだのだ。

やがて伊吹さんの、いつも抑えめの、低音の声が聞こえた。


『今すぐならあく』

「え」

『13時半から別件なんだ。それまでであれば』


私は急いで、ここから伊吹さんの会社までの時間を計算した。私だけ行っても仕方ない。デザイナーさんがサンプルを持って合流する時間、トルソー代わりのコンパニオンをひとりつかまえる時間。


「…12時半には御社に伺えます。ですがあの、伊吹さん、お昼休み中じゃ」


言ってから、よけいなことだったと悔いた。お前の頭が食い物でいっぱいなだけだろ、とかなんとか、悪しざまに言われるのを覚悟して首をすくめる。

けれど予想に反し、『いや』と静かな返事が来ただけだった。


『早く見たい』


なんなの。

そういうの、こちらとしては嬉しいんですけど。


「すぐ伺います」

『7階に直接来てくれ。部屋を確保しておく』

「はい、ではのちほど」
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