極上な彼の一途な独占欲
一時間ほど休むと、嘘のように回復した。毎月こうなのだ。きつい時間が過ぎればけろっと元通りになる。

ブースに戻り、スタッフひとりひとりの接客やステージングを見てはアドバイスし、さまざまな設備の不調による変更に対応しているうちに閉場時刻が迫っていた。

なんとなく横目で伊吹さんを探しながら仕事していたのだけれど、話しかけられそうなタイミングを見つけることができなかった。

最後のお客様が帰った後は、全員がブースに集まって終礼が行われる。それが終わった直後なら…と狙っていたのに、ふと気を抜いた瞬間に彼を見失ってしまった。

あれ、と清掃中のブースをしばらくぐるぐるして、あきらめてバックヤードへ帰りかけたところだった。

彼を見かけた。控え室から出てきたところで、もう帰り支度を整え、コートを着てビジネスバッグを持っている。

あたりはもう暗く、彼の吐く息が白く見えた。


「あっ、伊吹さ…」


かけようとした声は途中で消えた。別の控え室のほうから、華やかなファーコートに身を包んだ遥香が走り寄ってきて、彼に並んだからだ。

私は思わず、物陰に隠れて彼らと鉢合わせしないようにした。


「どこ連れてってくれるの?」


浮き浮きと腕を絡める遥香を、鬱陶しがる様子もない。


「人の来ないところ」

「私、その気になっちゃいますよ、そんなこと言うと」

「そういう意味じゃない」


柔らかな苦笑が、私の隠れている壁のすぐ向こうを通り過ぎていく。

冷たい壁が背中を冷やすのと、ちょうど連動するみたいに、心が冷えていくのを感じた。

…なんだ。

なーんだ。



夕食は昼間のうちに代理店さんから数の確認が来て、頼んでおくとお弁当が控え室に配られる。今日は頼まなかったので、空腹を抱えてホテルに戻った。

少し休んだら買いに出るつもりだったのだけれど、予想外にくたびれていたらしく、一度ベッドに寝転んだら立ち上がれなくなってしまった。

暮れた空の下、腕を組んで歩く長身のふたり。その光景が頭から離れない。
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