極上な彼の一途な独占欲
遥香があんなふうに露骨に誰かに絡むなんて、これまで見たことがない。まったく、よりによって伊吹さんなんて、冷静というかなんというか。

クライアントとしても男としても、確かに彼なら申し分ない。

まあ、そんなの関係なく、好きになっちゃっただけかもしれないけれど…。そのほうが信じたくないかもしれない。

うう、とやりきれない気持ちでベッドの上で身体を丸めた。

気があるなんて言われて浮かれていたけれど。そういえば気って、ひとつとは限らないんじゃない? あちこちにあっても別によかったんじゃない?

そんなことにも思い至らず、踊らされて。

バカみたい。

悲しい。



——気がついたら寝てしまっていたらしかった。

目覚ましが鳴っているのだと思って、まさか一晩寝てしまったのかと慌ててサイドボードに放り出してあった携帯を手に取り、そこに出ていた【伊吹尊】の文字にぽかんとする。

続いて襲ってきたのは、トラブルでも起こったかという焦り。職業病だ。


「はい」

『寝ぼけた声だな。今出られる?』


寝起きなりにしゃきっとした声を出したつもりだったんだけどな…。


「え、あの、出られる、とは」

『腹が減ってるんだ。つきあわないか。こんな時間だから、たいした店は開いてないかもしれないが』


こんな時間て、どんな時間?

私は部屋を見回し、自分が腕時計をつけっぱなしなのに気づいた。0時過ぎだ。えーっと、お腹がすいている人につきあうって、つまり食事するってこと?


「あの、ええっと、どうすれば」

『ホテルのロビーにいる。支度ができたら来てくれ』


はい、と言う前に、通話終了の電子音がポロンと鳴った。一方的だなあ、もう。

着たままだったスーツは、幸いなことにそう皺にもなっていない。バスルームでちょっとメイクを直して、コートとバッグを持って部屋を出た。
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